『アイ・コンタクト』/中村和彦監督



━━━高校時代は野球に没頭されていたとお聞きしました。先日ある対談で30代後半の3人が野球部(うち2人は映画監督)という共通点に驚かされましたが、体育会系的経験が監督業に活かされてると思うことはありますか?

  • 大いにあります。監督業は体力勝負的な側面も多いので、野球部で培った体力が活かされています。また共同で何かを成し遂げるという部分もチームスポーツの経験が活きています。ちなみにサッカー部に入るか野球部に入るか凄く悩みまして、その時のサッカーへの多大な未練が最近のサッカー関連作品につながっています。



━━━大学は文学部ということですが、映画に興味をもたれたのは、どこの時期からですか? また、きっかけのようなものはありますか?

  • 東京の大学(早稲田大学)に入って、名画座に通い詰めるようになり、急速に興味が深まりました。文学部の専攻は映画とは関係なく、東洋史の朝鮮近代史です。中退ですが。



━━━前作『プライドinブルー』は、サイドストーリーがあって、選手の成長や障がいによる困難をフォーカスして見たように思います。それだけに心動かされる場面も多くありました。『アイ・コンタクト』は試合の流れをベースに、個人を物語っていますが女子ろうサッカーチームという枠を外さず、社会の目で障がいを考えさせられました。ここに、監督が意図してこだわった構成のようなものがあるのでしょうか?

  • ろう者の女性の一生という大きな括りで構成を考えました。また通常の映画でよくやるような何人かの人物にフォーカスし人物紹介していくという構成形式をとらず、わざとジグソーパズルのようなインタビュー構成にしました。インタビュー部分の編集はもっとも苦労した部分です。



━━━試合の勝敗によって、映画の後半部分の流れが大きく変わるように思いますが、最終的にここは軌道修正せざるを得なかった、というようなものはありますか?

  • チームの合宿をずっと見続けていましたので、試合の勝敗の見当はついていました。期待はありましたが。



━━━『プライドinブルー』『アイ・コンタクト』とも直球にして分かりやすい、素敵なタイトルだと思いますが、監督のタイトルの決め方は直感型ですか? 結構、悩むタイプ?

  • 撮影:葛尾優子『アイ・コンタクト』は、思いついた瞬間にこれ以上のタイトルはないという確信がありました。
  • 『プライドinブルー』は二転三転しました。当初考えたタイトル案は『ライン』
  • 人と人との間に線が引けるのか、引くとしたらどういう線なのかといった意味を込めたタイトルでしたが周囲の猛反対にあい暗礁に乗り上げました。「夢」「明日」「希望」などのコンセプトが出されましたが今度は私が断固拒否。私の方から日本代表の誇りという意味を込めた『プライドinブルー』を再提案しまして、タイトルが決定しました。



━━━両親そろって聴覚障がい者という家族がいくつかあって驚きました。私はこれまで、遺伝を恐れたり、生活面に生じる危険性を考え、障がい者同士の結婚をできるだけ避けようとする人が多いと思っていましたから。結婚について、「同じ障がいを持った人がいい」と語る彼女たちの背景に両親の姿を感じました。実際インタビューしたそれぞれの家族の印象はどうでしたか?

  • かなり誤解されていたということですね。様々な理由で障害者同士の結婚を避けているとしたら、自己否定ということになってしまいますから。撮影:葛尾優子特に生まれつき聞こえない人は、聞こえないことが当たり前ですから、「かわいそう」と言われたり思われたりすることに違和感を感じますし、怒る人もいます。悪意なき善意からでた言葉でしょうが、相手のとっては「かわいそう」という言葉は、ある意味凶器です。そのことを健聴者はもっと自覚してくれればいいなと思います。
  • 結婚相手として、ろう者がいいというのは、文化や言語の問題だと考えた方が理解しやすいと思います。もちろん他の側面もありますが、間単に言えば言葉が通じる人の方がいいということです。
  • 質問が広すぎるたので一面のみを書き記しました。



━━━この作品に限らず当事者性のあるものに対して、一部しかとらえていない、現実はもっと過酷等の感想が寄せられることがありますが、『アイ・コンタクト』に寄せられた感想や反応で、特に印象的だったものはありますか?

  • 当事者の方から「等身大の姿を描いてくれた」という感想をいただきました。また、ろう者を描いた過去の作品の中で一番良かったという感想も多数いただきました。



━━━これからもこのテーマを深められていくのでしょうか? 次回作として考えていらっしゃる構想はありますか?

  • ろうの世界を描いた映画(ドキュメンタリー、劇映画問わず)を作りたいという思いはありますが、現実化の目途はたっていません。本を書いてみないかという話をいただき「アイコンタクト」というタイトルで現在執筆中です。


中村和彦(プロデューサー・監督):プロフィール


  • 1960年 福岡県出身。
  • 早稲田大学第一文学部在学中より劇映画の助監督をつとめ、フリーの助監督・監督補として、数多くの監督につき、テレビドラマ、オリジナルビデオ、劇場用映画、サッカー関連DVD、ドキュメンタリー映画等の助監督を経て現在に至る。主な監督作に、「棒 Bastoni」(2001年/フィラデルフィア国際映画祭正式出品他)「日本代表激闘録 2010FIFAワールドカップ南アフリカアジア地区最終予選」(09年)をはじめとするサッカー日本代表激闘録シリーズ、「ワールドベースボールクラシック日本代表栄光への軌跡」(09年)など多数。長編ドキュメンタリー映画「プライドinブルー」(07年)で文化庁映画賞優秀賞受賞。