『1000年の山古志』/橋本信一監督



━━━橋本監督は、前作『掘るまいか』と『1000年の山古志』という2本の作品製作を通して、10年以上も旧・山古志村と交流を続けておられるんですよね? そこまで、監督を惹き付けた魅力とはなんだったのでしょうか?

  • やはり人の魅力ということに尽きるのではないでしょうか。自分たちのことだけでなく、村や集落の未来を考え、次の時代のことを考える生き方だと思います。そして、自然が人間を鍛え、人間が自然を鍛えてきた相互関係がここにはあります。人が人として生きていくごく当たり前だけど強いものを僕はこの山古志に感じるんです。
  • またどんな時もユーモアを忘れない人たちだということも僕の心を惹きつけたひとつです。



━━━『1000年の山古志』では、冒頭の絶望的な住民たちの表情が、ラストで見事に希望の表情に変わる。その変化が最大の魅力だと思うのですが、撮影を開始した当初、このような変化を撮影出来ると考えていましたか?

  • ドキュメンタリーを撮るときは、映画が完成したときに初めて自分はこういう映画を作りたかったのだ、と思うものです。なのでどのようにこの映画が終わるのかも、撮影しながらも予測がつかないことがあります。もしこの映画がそういう住民の気持ちを掬い取れてるのだとすればそれは、我々も必死に無心に関わったからなのではないかと思います。



━━━監督が特に印象に残っている撮影中のエピソードを教えて下さい。

  • 山古志からやむなく柏崎に移住された五十嵐英利さん一家が久しぶりの里帰りで神社の境内で家族だけの盆踊りを踊るシーンは撮影しながら、心が震えました。言葉ではない一家の望郷の念が強く感じられ、宿舎で映像のプレビューをしながらスタッフ一同、五十嵐さんの思いに打たれ、この映画の果たさなければならない使命のようなものを感じました。
  • 松根カメラマンの撮影も素晴らしかったです。



━━━住民の方々とはとても長いお付き合いをしているのだと思いますが、そのために逆に注意した点などはありましたか?

  • 撮影行為に入るためにまずしっかりとした人間関係を作るということはスタッフとも話し、気をつけた点です。気持ちの上でのお互いの合意がなければカメラはまわしません。そして、我々はいつも撮らせて頂いているという感謝の気持ちを忘れないということを大切にしてきました。



━━━あえて、大きく訴えるテーマが見えるような作りではなく、淡々と時系列で復興の様子を描いていますが、その狙いは?

  • 狙いは特にありません。今回の映画は山古志の人々が故郷に戻れるまでの日々にしっかりと寄り添おうということで始まったものなので、作り方がどうという前に目の前の現実にしっかりと向き合い、確かに記録していこうということを大事にしました。我々スタッフの思いも映画の制作過程の中で刻々と変化していきましたが、それも含めての記録だと考えています。



━━━『1000年の山古志』というタイトルに込めた想いを教えて下さい。

  • この映画はただの復興映画でも防災映画でもありません。僕自身の気持ちとしては、1000年の歴史を誇る村の中にある日本人の根っこのようなものを掴みたいということで作った映画です。自然と共生しながら生きてきた山古志の人々の大地とのつながり、生きるチカラを感じて欲しい。そして、細胞が繋がっているともいえる山古志という土地へのこだわりはどこから生まれてくるのかということにも思いを馳せてほしいと思っています。



━━━『1000年の山古志』は多くの同じような中山間地域の方々に影響を与えるものだと思います。監督はどのように観ていって頂きたいと考えておりますか?

  • これは山古志というひとつの村の話として観るのではなく、日本人の魂のドラマとして観て頂ければと思います。考えてみれば日本の7割は中山間地です。山古志のような所は日本にたくさんあるはずです。
  • そして、山々に囲まれ、地震や津波、風水害や火山爆発など、災害列島ともいえる大地に住む日本人はこれまで何を大事に生きてきたか、どのようにして命のリレーを繋いできたかという視点も含みながら観ていただければと思います。



━━━それでは最後に、これから『1000年の山古志』を観る方々に一言お願いします。

  • 自分たちはどこから来て、どこに行くのか。混迷する時代の中で自分の足元というべきものを見失いがちになりますが、この映画を観て、日本人である我々の原点を見つめなおすキッカケになればと思います。そして、生きていく希望を見出して頂きたいと切に思います。

橋本信一(監督):プロフィール


  • 1961年生まれ。愛知県出身。1985年に横浜放送映画専門学院(現・日本映画学校)を卒業。
  • TVプロダクションに入り、ドキュメンタリー作品のディレクターとして記録映画やTVドキュメンタリーの演出に携わる。現在は映画監督、日本映画学校専任講師。
  • 『1000年の山古志』はその製作過程を評価され、第14回防災まちづくり大賞に選ばれる。
  • また、前作『掘るまいか』と『1000年の山古志』の2作品を通しての10年以上の旧・山古志村との関わりが評価され、2009年度日本映画復興奨励賞を受賞する。

主な作品


  • 「森林に生きる」      (1986年)
  • 「日本ストリート物語」   (1987年)
  • 「試練・小田急女子バレーボール部の記録」(1992年)
  • 「追跡」          (1995年)
  • 「北緯35度の風」     (1995年)
  • 「みちのくのサリバン先生」 (1997年) ATP奨励賞
  • 「掘るまいか」       (2003年) 文化庁文化記録映画優秀賞
  • 「1000年の山古志」   (2009年)