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映画『響生きょうせい アートの力』をめぐって
金丸悠児(画家・C-DEPOT代表) × 都鳥伸也(映画監督)

ドキュメンタリー映画製作の経緯

都鳥「そもそも金丸さんと僕たちの出逢いというのが、グラフィックデザイナーで画家の堤岳彦さんが主宰しているebcのアトリエでした。寡黙で、とても独特の絵を描かれる方だな、というのが第一印象です。その後、直接の交流は全くなかったのですが、あるとき、金丸さんが本をお書きになったと聞いて『C-DEPOTのキセキ』を読んだんです。ちょうど、僕たちの初めてプロデュースした映画『いのちの作法』(2008年)を上映している頃でした。当時、僕は24歳でしたが、プロとしては、はじめての映画製作で資金調達から上映まで全てを統括する立場を経験し、大変、苦労していたということがあって、C-DEPOTや金丸さんの活動にとても共感がしたんですよね。僕たちと同じように既成の会社や組織に属せず、自分たちで自分たちの居場所を作っていくという想いで活動している人がいるんだ、と。それで数年が経ちまして、ふと『若い人たちを主人公とした映画を撮っていないな』と感じたんです。今までは、どちらかというと人生の大先輩たちの生き様を記録する仕事が多かった。そこで、自分たちと世代の近い人たちの映画を作ってみたいという想いが生まれたんです。そのときにC-DEPOTのことを思い出したんですね。それでやってみようということで、昨年一年を撮影させていただいたわけです。大変だったのは、当初の想定と違って、EXHIBITION C-DEPOTという2003年~2012年まで続いた従来の形ではなく、社会との接点と自活力をつけるという部分に活動がシフトしていたので、なかなか構成が見えなかったことでした」

金丸「なるほど、一年に一度の大きな展覧会の一部始終を収めるという……」

都鳥「ええ。一種のメイキングドキュメンタリーとして、その中で起きるであろうドラマを映画にしようというのが当初の目論見でした。ですので、これでは映画になりづらいな、と思ったんですが、ちょうど『2014年からC-DEPOTの新しい一歩が始まる』というお話を聞いたものですから、製作を開始する踏ん切りが着いたというところもありました。これが一年遅かったら、違っていたかもしれません。構成はあまり想定せずに、『新しい一歩』ということを核にするとだけ決めて、撮影を開始しました」

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金丸「都鳥さんのおっしゃったように、例えば、最後にやった2012年のEXHIBITION C-DEPOTであれば、今までの総決算というか、積み上げてきた経験を表現するということで会場も来場者数も最大で規模でやっていたので、もしかしたら、それはそれで作品として成り立ったのかもしれませんね。ドキュメンタリー映画を提案してくださったときに嬉しいという気持ちと同時に僕らで大丈夫なのかな、という心配がありました。まだグループとしても発展途上でしたし、そんなに大きな社会的貢献とか実績がなく、まだまだだという意識があったので、映画になったときに、それが世に広めるにふさわしいものになるのか? と。ただ、ちょうど撮影に来てもらっていた時期は僕らにとっても転換期というか、すごくタイミングが良かったと思っていて、去年一年がC-DEPOTにとっては激動の……、今年もなんですけど(笑)、色々なイベントが重なって、爆発的に社会との接点が増えた時期だったので、それをうまく断片的に入れてくださったのが良かったなと感じています」

都鳥「ありがとうございます。EXHIBITION C-DEPOTのような場合は主軸がしっかりしているので、構成は簡単なのですが、今回の場合はモザイク状というか、点描のようになっているので、難しかったんです。結果的に撮影したけど映画に入らなかったイベントや展覧会もありました。ですが、点描のようにたくさんの展覧会やイベントなどに参加するようになって、よりC-DEPOTというアーティスト集団の輪郭がしっかりと見えて来たのではないかと感じましたね。それが映画にも反映されているのかもしれません。面白いなと思ったのは、僕たち映画の人間もそうなのですが、なかなか社会との接点がないんですよ。ですから、僕たちは映画というメディアを発信する側なんですが、それを受信する一般の人たちの感覚とだんだんズレてくるということが起きてくるんです。そういう意味で、C-DEPOTのやっている社会と多角的につながるというのはとても良いなと」

金丸「そうですね。僕らもEXHIBITION C-DEPOTをやっていたときは、大きな規模の展覧会をやって、作品を発表して、それなりの充実感はあったのですが、それが結果的にどうだったのかという成果が実感しにくいところがありました。そこで、最近の活動の方向性としては、クライアントがいて、その要望に応えるとか、実際に作品を展示販売して、お客さんの顔が見えるとか、イベントの中のひとつのコンテンツになって、そのイベントを盛り上げるとか、役割を与えられてそれに応えるという機会を増やすようにしてきました。そういうことをきっかけに、参加した人たちが、自分たちがやった仕事に対するフィードバックを感じられるようになったということが、社会との接点を持つ意味だと思うんですよね。それがC-DEPOTの活動の中に入るようになってきたというのはすごく大きな進歩だな、と。そこを今回、映像で切り取ってくださって。良いな、と思ったのは、ある展覧会で、お客さんが絵を購入する場面です。しかも、それが外国のご夫婦だというのがめちゃくちゃ良いなと思って(笑) 映像で撮れたことの幸運はもちろんですが、僕たち作家側としても、日本人だけではなく、良い出会いさえあれば、アートに国籍も国境も関係ないんだ、ということを実感出来たというのが嬉しかったですね。情報や理屈ではわかっていても、なかなか体験できることではないですから」

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映画製作においてのハードル

金丸「この映画を製作する上で、ハードルがいくつかあったと思うのですが、最も大きなハードルが都鳥さんが岩手に住んでいて、僕たちの活動拠点が東京ということの距離の問題がいちばん大変だったのではないか思います。もちろん、様々な仕事のスケジュールを同じ期間にまとめることでやりくりしていましたが、ドキュメンタリー映画には、毎日、カメラが活動に張り付いて、じっくりと撮影するイメージがあったので、どうするんだろう? と。正直なところ、“無理なのでは”と感じていました」

都鳥「たしかに、距離の問題は大きなハードルでした。毎日張り付いて撮影ができれば、また違った作品ができていたでしょうね。でも、今回のような良さが生み出せたかと言えば、それも分かりません。大宮浩一監督は、“撮影日数や張り付いた日数ではなく、どれだけ対象者に想いを向けたかが大切だ”とおっしゃっていたことがあります。“毎日、カメラを回せることで失うものがある”と。また、伊勢真一監督は、製作費が少ないため、毎日の撮影は出来ないので、スタッフが余裕のあるタイミングで定点的に撮影を行い、『なおちゃん』という傑作ドキュンタリーを生み出しました。そういう先達の姿があったので、同じような姿勢で取り組めば大丈夫なのではないか、という自信はありました。それから、全国放送のテレビ番組や全国公開の映画の地方ロケというのは、地元の制作会社が制作するのではなく、東京から地方にスタッフが来て撮影することが多いわけです。そうすると、たとえ地方に良い才能が埋もれていても、それが育つ土壌がない。東京に出て来ない限りは芽が出ないということになる。それでは人口流出は止まらないし、地方は衰退していくだけだな、という想いがあったので、今回、岩手の人間がオール東京ロケの作品を作るのも良いのではないか、と挑戦しました。これは技術の進歩のおかげもあるのですが、金丸さんがご自身で、モバイルや家庭用のムービーカメラで撮影していた映像を使うことができたのには、とても助けられましたね」

金丸「こんなの使えるのか? という映像も上手に使っていましたね(笑)」

都鳥「ありがとうございます(笑)。たしかにプロが撮影した映像ではないので、それなりの難しさはあったのですが、逆にその映像から伝わってくる雰囲気が、いくつかの場面の構成を思いつかせてくれました。やはり、映っている人たちの気持ちが伝わってくるんですね。こちらも“ああ、こんなことを経験してきたんだ”と。それぞれの映像から追体験をすることができました。これはとても興味深い作業でした」

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金丸悠児、ナレーションに初挑戦!

都鳥「今回、金丸さんに無理を言って、録音スタジオで『C-DEPOTのキセキ』の文章を抜粋して朗読して頂いたのですが、どうでしたか?」

金丸「あんなにシビアなものだとは思わなかったですね(苦笑)。自分の中で抑揚をつけたつもりだったのですが、出来上がったものを聞くと、本人の思いほどではなく、淡々としていて……。そのギャップに驚きました。あらためて、声でお仕事をされている方はすごいなと感じましたね。朗読もそうなんですけど、こうしてドキュメンタリー映画の取材を受けること自体が、これまでそんなに自分の姿を人前にさらすことをしてこなかったので、抵抗がなかったと言えばウソになるのですが、もうわりきって、生き恥をさらすみたいな思いでやってきたんですけど、これはこれで貴重な体験ができたなと感じています」

都鳥「あの朗読の部分は僕も悩んだんです。他の誰かに読んでもらうのか、ナレーターの悠雲さんにお願いするのか、と。ナレーターの声とは違った方が良いけど、プロすぎる感じも違うなと思って、友人を2人ほど候補にして、読んでもらったのですが、しっくりこない。そこで、やはり本人に読んでもらうのがいちばんだろうと」

金丸「本人だというのは聞けばすぐにわかりますからね(笑) 僕が2008年に書いた文章を、今、心境も考えも変化したところで朗読するという形だったので、なんだか昔の自分に再会したような気恥ずかしさというか、あの頃はこうだったな、と青臭い自分に対面して複雑な気分でした。きっと今だったら違うことを言うでしょうし、書くと思うので……」

都鳥「その感覚は面白いですね。僕はとてもあの文章が好きで、ひとつひとつの小さな活動が大きなうねりを作るというイメージを掻き立てられたんですね。とても前向きな希望を感じました。2008年に書かれた“小さな種をまく”という文章が、7年を経た今、形になりつつあるんだという、それを映画を観た方に感じてほしかったんですよね。一歩一歩着実に歩んでいけばちゃんと広がっていくんだということが伝われば、と考えています」

金丸「恥ずかしかったですけど、良かったんじゃないかな、と思います(笑)」

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完成した映画を観て

金丸「C-DEPOTの活動を10数年やってきましたが、メンバー全員が10数年関わっているわけではなく、初期からいる人もいれば、今年から参加した人もいるので、C-DEPOTに対する認識が統一されていない部分があるんですね。メンバーなんだけど、C-DEPOTが何を目指しているのかとか、今までどんなことをしてきたのということを、実は良く分からないまま参加している人も多いんですよ。あらためて、そういうことを説明する機会も特に設けてこなかったので、一緒に活動の機会を共有しながら、コミュニケーションを取ってきていました。それが、今回、映画ができたことによって、多くのメンバーが“ああ、C-DEPOTってこういう活動だったんだ”ということに気付くんじゃないかな、と思っています。そういう点で、新しいメンバーが入ったときのひとつの教科書になるのではないかと。きっとほかのメンバーも楽しめるのではないかと思いますよ。もちろん、一般の方にC-DEPOTの活動を知っていただくことがいちばん大切なのですが、メンバー内の結束を高めたりとか、問題意識を共有したりする意味でもこの映画が重要な存在になるのではないかと期待しています」

都鳥「たしかに撮影中も、“初めまして”というやりとりがいくつかありましたね。C-DEPOTはアーティスト同士の交流の場であり、そこから新しいものが生まれるひとつの土壌になっていると思いますので、この映画がその力になれるのであれば嬉しいです。今後のC-DEPOTの展望というのはどのように考えておられますか?」

金丸「よくメンバーからも、C-DEPOTのゴール地点をたずねられることがあって、返答に困るのですが、人の人生に置き換えたときに、“あなたのゴールはどこですか?”と聞かれても困りますよね。それと一緒であまりC-DEPOTのゴール地点というのを定めないようにしています。こういう方向に進めば良いな、というのはもちろんありますが、ここがC-DEPOTのゴールで目的です、というのを定めてしまうと、それと違う何かが起きたときに柔軟に対応できない場合があるので、そこは固めずにおいてその時々の必要に応じて、臨機応変に動いていくというのが近年のスタイルになっています。とは言っても、やはり活動の軸はしっかりしていなければならないので、『アーティストと社会の架け橋をつくる』という理念を主軸において、アーティストたちが自分らしく作品を作りながら、生きていくためにはどうしたら良いかといったことを活動を通して追及していきたいですね。そして、いまアーティストとしてがんばっている人や、これからアーティストを目指す人が、より豊かな気持ちで作品制作に取り組むことの出来る環境を作っていきたいということを考えています」

都鳥「それが、良い意味でC-DEPOTの活動にふくらみを持たせているのかもしれませんね」

金丸「そうですね。やっぱり、社会全体がこれまでの方法を辿るだけでは通じなくなっているところがあって、色々な方法論が飽和状態になった末に、その活路をアートに見出そうとしていることをじわじわと感じているんですよ。具体性はないんだけど、アートで何かをやってほしいとか、何か協力してほしいという相談をもらうことが増えてきたので。そういうときにC-DEPOTみたいな多様性のある活動が、相談者の要望に対応できていけば、より色々な広がりが見えてくるんじゃないかと」

都鳥「そういうことがとても大切だと思うんですよ。だから、今回、“共に生きる”=“共生”という言葉をヒントに、さらにお互いが響き合うという意味も込めて、“響生-きょうせい-”というタイトルを映画につけたんです。ですから、先ほど、金丸さんがおっしゃったようなことも含めて、様々なメッセージがこの映画から伝わっていけば嬉しいですね」

(2015年9月19日 C-DEPOT terminalにて)

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