▶︎イントロダクション

写真提供:釜石市郷土資料館

 岩手県釜石市は1857年に日本で最初に洋式高炉による出銑に成功し、1874年に建設された官営製鉄所により、鉄の町として発展を遂げた“近代製鉄発祥の地”として知られている。その日本初の洋式高炉跡である「橋野鉄鉱山・高炉跡」が、2015年に世界文化遺産に指定されたことは記憶に新しい。
 また2011年の東日本大震災によって大きな被害を受けた市町村としてその名を知る人も多いだろう。
 しかし、この場所が、今から76年前のアジア・太平洋戦争末期、2度の艦砲射撃により、東北でも最大規模の被害者を出した戦災に見舞われた場所であることを知る者は少なくなりつつある。
 記憶の継承が不安視される中、アジア・太平洋戦争開戦から80年の節目に当たる2021年、旧・沢内村(現・西和賀町)の記録映画『いのちの作法』(2008)のプロデューサーとして知られ、北上の戦争遺産を記録した『戦争の足跡を追って 北上・和賀の十五年戦争』(2021)の公開を控える都鳥拓也・都鳥伸也兄弟(北上市在住)が釜石艦砲射撃の記録映画製作に挑む―――。

▶︎映画の内容と主な構成要素

 釜石市内に鳴り響くサイレンの音―――。
 
 釜石では、市民に艦砲射撃を受けた日であることを周知し、犠牲になられた方々の冥福と永遠の平和を心から祈念するため、毎年7月14日と8月9日に防災行政無線でサイレンが鳴らされるのです。
 映画は、毎年8月9日の戦没者追悼式と、市内各地で黙とうをささげる釜石民たちの姿から始まります。
 そして、ご存命の経験者の方々や、『あなたの町で戦争があった 岩手の空襲・艦砲射撃』の著者である加藤昭雄さんのインタビュー、そして資料写真などを紡ぎ、主に以下の要素を描き出していきます。

・ 釜石艦砲射撃の概要
・ 鉄の町釜石の成り立ち。
・ 釜石艦砲射撃の被害者の声(インタビュー)
・ 郷土資料館の活動
・ 釜石市の実施する「艦砲射撃による戦災犠牲者」の再調査の様子

 こうした要素を通し、この映画で描かれるのは、生き延びた人たちの平和への想いと、“二度と同じ過ちを繰り返してはいけない”という願いです。